ワインにとっての自然って?〜醸造について
続いては、ワインが作られる工程での違いです。
ワインの種類によって違いはありますが、通常の流れとしては・・・
収穫した葡萄の房から実をとって潰す(除梗&破砕)
↓
アルコール発酵
↓
絞って、マロラクティック発酵(酸味を和らげる。白ワインはやらない場合もある)
↓
タンクや樽で熟成
↓
清澄剤などを入れて、ゴミを取り除き濾過
↓
瓶詰め
と、なります。
「自然派ワイン」=「ヴァン・ナチュール」を名乗る上で、どのような醸造をしなければいけないか?
例えば、「スパークリングワイン」の中でも「シャンパーニュ」を名乗る上では醸造過程で決まりがあります。では、「ヴァン・ナチュール」はというと・・・
最近まで、明確な定義がなかったみたいですw
まさかのオチとなるところでしたが、2020年3月にフランスのINAO(国立原産地名称研究所)によってナチュラルワインの定義が採用されたようです!
フランス以外の国は違った基準になる可能性がありますので、「全てコレ!」というわけでもないです。
その中で、醸造に関する部分を以下の通りです
①有機認証を受けている畑のブドウを100%使用していること。
②手収穫であること。
③野生酵母による発酵であること。
④添加物が不使用であること。
⑤ブドウ品質の加工は禁止。
⑥ろ過、クロスフィルター、瞬間殺菌、サーモヴィニフィケーション、逆浸透膜等の物理的な醸造技術の使用を禁止。
⑦発酵開始前及び発酵中の亜硫酸添加を禁止。ボトリング前の亜硫酸の添加はワインの種類に関わらず30 mg/l まで可能 (添加を行っている場合はエチケット上への記載義務および使用可能なロゴの変更を伴う)
これだけでは、「中村、なんのこっちゃ?」という感じです!
文頭にある基本的な醸造工程を踏まえて「ヴァン・ナチュールの定義」がどう影響するのか?
私の少ない知識と想像の中で、3つの疑問が浮かびました。
「野生酵母による発酵」
酵母は様々な発酵食品に使われます。ワインも発酵食品です。
葡萄の「糖分が酵母によって発酵しアルコールと二酸化炭素を生成」します。
使用する酵母によって、ワインの色や香、味わいに影響します。そのため酵母選びというのも大事なポイントとなります。
培養酵母は、乾燥酵母とも言われ、野生酵母からワイン醸造に適した酵母を培養し乾燥させたものです。
培養酵母は製造過程で手は加わりますが、原料が野生酵母なので自然界にあるものです。
「製造」という点で、工業的な印象はありますが出来上がりを調整でき品質が安定しています。
野生酵母は手を加えてない分、様々な種類の野生酵母が混ざっている状態です。
自然な印象があり「多種の酵母」の作用でワインに複雑味を与えられますが、「多種の酵母」をコントロールする技術と経験が必要になると思います。
「亜硫酸」
亜硫酸とは、二酸化硫黄(SO2)とも言われ、酸化防止剤の役割があります。
前述の酵母のお話と上記の⑦を踏まえての疑問となります。
⑦には「発酵開始前及び発酵中の亜硫酸添加を禁止」とあります。
発酵前に添加する理由は、収穫して破砕した葡萄が自然酵母で想定外の発酵を起こす事を防ぐ目的です。
発酵中に添加する理由は、酵母とバクテリアのコントロールです。
この段階で相当、醸造テクニックがないと難しい気が・・・
自然酵母を管理できて、衛生管理を徹底していないと発酵食品としてNGとなってしまいます。
写真を見てどう思いますか?ワイナリーって凄く綺麗なんです。
醸造施設を見学させていただくときは、ピリピリした空気が流れます・・・
次に「ボトリング前の亜硫酸の添加はワインの種類に関わらず30 mg/l まで可能」とあります。
ヨーロッパでは残糖量が多くなるとSO2添加量も多くなります。
理由は、前述の通り「糖分が発酵してアルコール」になります。「残糖=残っている糖分」です。
糖が多く残っていて、同時に管理できなかった酵母が残っていた場合、瓶詰め後も発酵が進みます。
本来そのリスクを防ぐために亜硫酸を添加する意味合いもあると思います。
残糖がゼロであれば、発酵はしませんので問題ありませんが、その量に関係なく 30 mg/l という事なので、残っていた糖分が瓶内で発酵してガスが発生し噴出!とか、不完全な発酵をしたり、腐敗したり・・・
と様々なリスクが考えられます。
自然派生産者の中には、「SO2無添加」の方もいるので、心配要素ではあります。
ちなみに「SO2無添加」を売りにしていても裏ラベルの成分表示に、「亜硫酸」と書いてあります。
これはアルコール発酵の際、SO2も微量に発生してしまうので、それを記載する義務があります。
「添加物不使用と濾過禁止」
瓶詰め前に行われる作業が「清澄」と「濾過」です。
卵白など清澄剤を入れて、不純物を濾過するのですが、添加物使用で濾過禁止となると、どちらもせず、瓶詰めとなります。
熟成中にタンク内の不純物が沈んで上澄を瓶詰めすると思いますが、無濾過なので少しは濁ると思います。
亜硫酸の内容と同じく、健全に出来上がっていれば問題ないのですが、そうでないと食品としてNGとなってしまいます。
自然派のワインというのは、「文明の力を加えないようにしているワイン」という印象です。
ワインを古代から作ってきて、失敗を重ねて、法律も作られ、技術も進化して、機械や薬剤、添加物を使うようになったのですが、副作用に気づき原点に戻ろう・・・と。
いい考えだと思いますが、あくまでも「食品として安全である」ことは絶対だと思います。
自然派のワイナリーが経験を生かして、安全で美味しいワインを作ってくれれば文句なしです。
それをどうやって、チェックして世に流通させ、消費者がどのように手にできるのか?
それは次回。